参加者からの声〈4〉(リスニング実践トレーニングコース)
2022-10-20ナラティヴ・カーニバル 2022 アンケート結果
2022-10-25ナラティヴ・セラピー・プラクティス・シリーズ 2022に、奨学枠として参加してくれた江刺香奈さんが、プラクティス・シリーズで学んだ体験をエッセイに綴ってもらいました。
ナラティヴ・セラピー・プラクティス・シリーズ 2022の内容は、こちらからご覧ください。https://npacc.jp/2021/3296/
なお、プラクティス・シリーズは、2023年も実施しております。興味のある方はこちらをご覧ください。https://npacc.jp/2022/3521/
ナラティヴ・セラピー・プラクティス・シリーズ(2022年度)終了後エッセイ
江剌香奈
私は臨床心理士として心理支援の技術を身に着けるために,2021年度にワークショップ・シリーズでナラティヴ・セラピーの基礎とされる部分を学び,翌年度にこのプラクティス・シリーズに参加しました。プラクティス・シリーズに申し込んだのは,ワークショップ・シリーズでの学びを通して,ナラティヴセラピーの魅力や,人や対話への理解の仕方の奥深さを少しずつ味わい,さらに学びを深めたいという気持ちが膨らんだためです。より正直に言うと,ナラティヴ・セラピーを十分理解して使いこなすには,まだまだ勉強が必要だということが,勉強をしたからこそ分かったような気がしました。実際プラクティス・シリーズの全ての回に参加できて,本当に良かったと感じています。このシリーズでの実践的な機会は,私がこれまでに他の機関で経験した,カウンセリングのロールプレイやその類の訓練とは質の大きく異なるものでした。
このシリーズの最大の魅力は,一緒に学ぶ方々からの刺激の豊かさにあると感じました。ホームページに『ナラティヴ・セラピーについてのワークショップに参加したことがある人が対象』と掲載している通り,このシリーズにはナラティヴ・セラピーについて一定以上の学びや経験を積んだ方々が全国から集まってきます。そのため,受講者各々がこれまで学んできた知識や,経験の中で試行錯誤しながら培ってきた対話のあり方を,ワークを通して様々な角度から見せてもらえたように思います。
特定の技術を伸ばすには,その道で一流の,特定の師匠のような人に教えてもらうことが良いという考え方があるでしょう(私もよくそういうことを考えていました)。ですが,人と人とのコミュニケーションには,『ああ言われたらこう返すのが良い』という絶対的な原則はほとんどなく,その代わり,ナラティヴ・セラピーでの学びを自分なりに咀嚼し,腑に落ちたことを,熟考や工夫を重ね体現に努め,実践後に反省するという繰り返しが必要になると感じるようになりました。そのため,様々な人生経験や個性をもった方々がこれまでの学びを自分なりに表現し合えるこの機会は,ナラティヴ・セラピーを自身にどのように取り込んでいくかのヒントをもらえる点で,非常に助けになりました。
例えばワークの中で,安心した対話空間を提供しようとする時,ある人は柔らかで優しい雰囲気を醸し出しながら,またある人は明るくユーモアのあるやり方を通して体現するのを目にしました。「あんなやり方も,こんなやり方もあるんだ!」,「そのような言葉の遣い回しがあるのか,それはこんなにも安心するんだなあ…」「ここはマネしたい!でもこっちは見事すぎて,今の自分には難しそう…」等々,学んでいることは共通でも,その表現の仕方は見事に多種多様で,「百聞は一見に如かず」とはまさにこのことだと思いました。受講者の方々によるOW&Rグループのデモセッションや,文書化の実践における実際の文章も見ることができました。それらは,受講者の方々がその場で考え抜いた繊細で優しい言葉遣いや,語りに対する受け止め方,伝えようとする想いなどがありありと伝わってくるもので,「語りをこんな風に受けとめているんだ」「こういう風に伝えるんだな,素敵…」などと感動したことを覚えています。マネできるところ,感動するポイントを吸収しようという気持ちが自然に生じて,オンラインでも身を入れて取り組むことができました。終わった後は非常に疲れましたが,毎回「今日も大切なことを学べた」という実感を持ち帰ることができました。
一方,皆さん楽しそうに学んでおり,“まだまだ学びの途中にいる”という謙虚な雰囲気をもっていることも印象的でした。そのため「うまくできなかったなあ」という失敗した感覚や自信のない気持ちも言葉にし,お互い「そうだよね,ここ難しいよね!」と気軽に言い合えるのも,前向きに学ぶことの支えになったと思います。ナラティヴ・セラピーの考え方を体現するかのように,安心できる受容的雰囲気が醸成されており,自分がロールプレイでどんなに失敗したと思っても,苦しくなるような言葉・態度を示されることはなく,ワークをすることにいつも安心感を持てたことも,学びの大きな助けになりました。ロールプレイ後のフィードバックでは,意識して褒め合うというよりも,お互いのために誠実に丁寧に言葉を選ぼうとする雰囲気がありました。口頭やチャットを通してあたたかい言葉を頂いたのはとてもいい思い出です。何度目かの練習を経て,「何を話しても大丈夫そうだと思えました」などの言葉をかけてもらえたこと,グループごとの時間が終わった後のチャットにて「(セラピスト役として)こういう言い方をしたけど,~という点で申し訳なかった」という気遣いのメッセージを受け取ったことなどから始まった,忘れられないやり取りがいくつも思い出されます。受容し合う雰囲気の中で自然と,私も同じように伝え返したいという気持ちになり,勇気づけられ,楽しみながら学び続けることができました。
このことは,単に気持ちよくロールプレイに取り組めるということ以上のものをもたらしてくれたと思います。私は以前,他機関でカウンセリングのロールプレイを体験したことがあるのですが,そこではどのような評価をされるのか気になって,集中できなかったり,現場でのカウンセリングとも違う,独特なモードに自身が陥り,そこでのあり方をそのまま普段の実践で活かすイメージが湧かず,悩んだことがありました。しかしここではそのようなことなく,自然体で自分らしくワークに取り組めたため,その経験をそのまま普段のカウンセリングに活かすイメージをもてましたし,実際に活かすことができたように思います。学びというと一見講師から,というイメージが強かった私ですが,このシリーズを通して,一緒に学ぶ方々からこれほどまでに良い影響を受けるとは予想していませんでした。
最後にこのシリーズの特徴を挙げると,回を重ねるごとに,その時意識するテーマも積み重なる構成で,徐々にレベルが上がっていく感覚を持てたように思います。最初は基本的な話の聞き方,伝え返し方から始まり,ひたすら外在化する練習,例外探しの質問をし合う練習など,一つのテーマに集中した練習が続きます。後半になると,再著述の会話等,これまでの学びの集大成になるような練習が行われます。以前の回での練習で大切にしていることをそのまま維持し,それらを積み上げて総合的なテーマに取り組むという感覚です。だからといって,「これは前に習ったからできるよね」というプレッシャーを感じさせる雰囲気はありません。「以前話したこういうことも意識するといいよ」「ああいうことも使えるかもしれないね」「単発で参加される方もいるからお互いに配慮しようね」という言葉を交わし,各々ができるところからやってみよう,と思える雰囲気がありました。私も当初は,要約して伝え返すといった基本的スキルですら「これでいいのかな,慣れないなあ…」という感覚があったのですが,受講生の方々の表現を何通りも見たり,私自身も練習していく中で,徐々になじみのある行為へ変わっていったように思います。“できるようになった”とまでは言えなくとも,過去の自分と比べるとできるようになったという感覚をもてたことや,会話が意外な方向に発展したことをみんなで笑いながら振り返った時は,とてもうれしい気持ちにさせられました。そのポジティブな気持ちが,「緊張してもいいから思い切って言葉にしてみよう」と挑戦することを助けてくれたと思います。
このように1年間のプラクティス・シリーズは,多方面の気づきが得られ,自身の臨床技術の変化を実感できる場となりました。この貴重な体験を得られたのは,同じ目線から共に学び合える受講者の方々のお蔭であり,場の環境を整え,貴重な示唆を示してくださったnpaccの運営の方々のお蔭です。ナラティヴ・セラピーを学び,実践する機会に巡り合えたことに感謝し,これからも楽しい学びを続けていこうと思います。