NPACC実践のベースとなるアプローチ

マイケル・ホワイト著/小森康永・奥野光訳
「ナラティヴ・プラクティス 会話を続けよう」

Narrative Practice and Coresearch Centre (NPACC)

NPACC実践のベースとなるアプローチ

 次のNPACCのカウンセリング実践を支えるアプローチ、哲学的姿勢などについて述べます。

カウンセリングのベースとなる会話

 ナラティヴ・カウンセリングは、カウンセリングの場で起こる会話というものをとても大切にしています。なぜなら人は、他の誰かとの会話を通して様々なことを振り返り、確認し、そして新しい考え方や行動の可能性を発展させていくのだと考えているからです。さて、このように言ってしまうと、もしかしたら「会話なんて誰でもできる」と思われるかもしれません。しかし果たして本当にそうでしょうか。例えば、ただ相手のいうことにうなずいて受け止めているだけでは当然豊かな会話は生まれません。逆に、自分の意見や正しく見えるアイディアを一方的に押し付けたり、安易なアドバイスをすることは、いい結果にならないばかりか、それ以上の会話の可能性を閉ざしてしまうかもしれません。人に悩みを打ち明けて、十分に満足な会話ができたと感じた経験が、どれくらいあるでしょうか。何か大変な思いや状況を抱えた人の話をしっかりと聞いていくこと、そして可能な限り、様々な気付きや視点に開かれた豊かな会話を行っていくことは、それに臨む姿勢と十分な技術を必要とする活動だとNPACCは考えています。

ナラティヴの哲学・姿勢

 では、ナラティヴ・カウンセリングの会話とは、どのようなものになるのでしょうか。ここでは、ナラティヴ・カウンセリングの持つ重要なスローガンや概念とともに、私たちが大切にしている姿勢と、それがどのような会話につながっていくかをご紹介します。もしかしたら、これらのアイディアは、少し不思議な感じがしたり、これまでのカウンセリングの常識と異なっていると感じられるかもしれません。しかし、私たちは、相談に来る方たちと、実り豊かな会話をしていくために、こうした考え方や会話の仕方がとても大切であると信じています。

ナラティヴ・カウンセリングにおけるユニークな実践

 ここまで説明してきたような考え方と会話のアイディアは、それ自体、ナラティヴ・カウンセリングの大きな特徴の一つといえますが、ナラティヴ・カウンセリングでは、このほかにも様々なユニークな実践を発展させてきています。中でも、「アウトサイダーウィットネス&リフレクティングチーム(OW&Rチーム)」と「ナラティヴの手紙」は他ではあまり見られないユニークなもので、NPACCでも積極的に導入を試みています。

アウトサイダーウィットネス&リフレクティングチーム(OW&Rチーム)

 カウンセリングと言ったとき、多くの人はカウンセラーと相談に来た人が1対1で話している場面を想像するのではないでしょうか。もしかしたらそこに、相談に来た人の家族やパートナーを加えた場面も想像できるかもしれませんが、やはりそこにあるのはカウンセラーと相談に来た人という1対1の図式です。実際、従来のカウンセリングはそうした構造が基本であり、常識でした。しかし、ナラティヴ・カウンセリングでは、そこにアウトサイダーウィットネスという、もう一つのポジションの参加者を招き入れることで、もっと豊かな会話を発展させていこうという試みがあります。

 アウトサイダーウィットネスは、文字通り「外部の証人」という意味です。そのカウンセリングの展開は、非常にシンプルです。最初、カウンセラーと相談に来た人との間で通常のカウンセリングが行われ、アウトサイダーウィットネスは少し離れてその会話に耳を傾けています。そして、区切りのいいタイミングに来たところで、アウトサイダーウィットネスが会話に参加します。彼らは、カウンセラーに質問される形で、そこまでの会話や相談者の物語で、自分の注意を引いた表現や、そこから得たイメージ、そして、それがなぜ自分の琴線に触れたのかや、自分の人生にどんな影響を与えたのかを言葉にしていきます。ちなみにこの時は、相談に来た本人は、直接会話には加わらず、一歩下がってその語り直しをゆっくりと聞くことができます。アウトサイダーウィットネスの話が終わった後、は再度、カウンセラーと相談に来た方との会話が始まります。相談に来た方は、アウトサイダーウィットネスの発言を聞いて何を感じたかについて、また言葉にしていきます。基本的に、NPACCでは、アウトサイダーウィットネスは他のカウンセラーや専門のチームから選ばれますが、時には相談に来た人の関係者や、過去のクライエントなど、様々な人が含まれる可能性があります。

 さて、このような第三の参加者がカウンセリングに加わることで、いったい何が起こるのでしょうか。そこには様々な意味があります。例えば、困難な状況における自分の苦悩や努力の道程、そこにある様々な思い、あるいは自分の大切にしてきた価値観や希望など、あなたが語った、あなたが生きてきた物語が誰かに認められる、そんな大切な機会となる可能性を開くことができます。あるいは、あなたの語った物語が、誰かの心の琴線に触れ、その誰かの人生で大切なものを思い起こさせたとしたらどうでしょうか。そのような体験は、時に、問題に立ち向かい、新たな人生の展開を切り開いていくための力となります。また、ひょっとするとカウンセラー以外の視点が入ることで、カウンセラーや当の相談者本人も気づけなかった、けれどもその人にとって大事な人生の側面について気づく可能性を高めてくれるかもしれません。アウトサイダーウィットネスを含めたカウンセリングは、1対1のカウンセリングでは起こりえない、けれどもとても大切な体験を提供する可能性を開いてくれます。

 それともう一つ、私たちは、実はこうしたアウトサイダーウィットネスの構造は、カウンセラーや、カウンセラーを目指す人達にとっても重要な機会を提供すると考えています。現在の日本では、カウンセラーが他の人のカウンセリングを見る機会はあまり多くありません。しかし、アウトサイダーウィットネスの実践は、その貴重な学びの機会を参加者に提供してくれます。また、こうした構造は、カウンセリングを提供する等のカウンセラーを支えるという一面も持っています。アウトサイダーウィットネスが機能することで、相談に来た人だけでなく、カウンセラーや、アウトサイダーウィットネスなど、そこに関わる全ての人が様々な形で支えられるのではないかと考えています。

 さて、NPACCでは、この会話の構造について、「アウトサイダーウィットネス&リフレクティングチーム」という少し長い呼び方をしています。前者の「アウトサイダーウィットネス」は、ナラティヴ・カウンセリングにおけるこの構造の呼び方です。しかし、実はトム・アンデルセンという人もこうした会話の構造を「リフレクティングチーム」と名付け、長く発展させてきました。ナラティヴ・カウンセリングの創始者であるマイケル・ホワイトも、トム・アンデルセンのリフレクティングチームの考えに影響を受けながら、アウトサイダーウィットネスのアイディアをさらに発展させていきました。NPACCではこの2つの名称の両方に敬意を払うために、それらを組み合わせて「アウトサイダーウィットネス&リフレクティングチーム(OW&Rチーム)」と呼んでいます。

  

NPACCの実践を支える参考文献

NPACC関係者の書籍・訳本も含まれます。

narrative-conversation
ナラティヴ・セラピーの会話術: ディスコースとエイジェンシーという視点
41vLeirzXSL._SX357_BO1,204,203,200_
ナラティヴ実践地図
71lpo3H7oIL
物語としての家族[新訳版]
51Ucub8DKYL
ふだん使いのナラティヴ・セラピー: 人生のストーリーを語り直し、希望を呼び戻す