
えぬぱっく小誌 No6(2025年4月)特集:黄色いドレスとえぬぱっくの本棚(1~4)
2025-05-09
RCファシリテーター&RCチーム講座(参加者の声を掲載)
2025-05-12参加者の声(2025年5月12日追記)
ワークショップに参加した人から感想を頂いています。ホームページに掲載してもいいという許可をいただいたものだけ掲載します。
“まもさん、今日は本当にありがとうございました。被害やトラウマからの影響が大きい方とのセッションにおいて、ナラティヴは情動をどのように扱うのか、最近の潮流としても身近な実践においても、大きなテーマとなっています。
社会・文化的な文脈を大切に考える、マイケルからデンボロゥというナラティヴ実践の流れと、脳神経科学的アプローチとがどのように融合できるのか。ひとつの可能性を見せてもらったように思います。機械的に教示していくトラウマ治療ではなく、「害をなさない」「再トラウマ化」しない、目の前の人の役に立とうとする、会話を通した再著述化実践のひとつであると理解しました。自分の実践にどのように取り入れていけるのか、真剣に考えるきっかけを頂きました。感謝しています。ありがとうございました!”“今回の本棚では、デンボロウの視線からだけでなく、ナタリーの視線からも観ることで、今唸りながら読んでいるナラティヴと情動の話が解きほぐされて入ってくる感覚を持てたような気がしています。
ナタリーのナラティヴの実践がある上で、更に一歩踏み込んでおきたい願いからの身体化と結びつける実践は、ナラティヴの可能性を広げてくれていることもしっかりと受け取りつつ、まもさんのお話から、そこからあともう一歩、踏み込むというか、立ち返るというか、好ましい自分の強化だけに留まらない文化的・社会的な文脈からの再著述の強化という方向性への広がりもあるだろうことを感じることが出来ました。
私の中に浮かんだのは、やっぱり「行ったり来たり」するんだな、というものだったのですが、終了後にいただいた資料の「おまけ」部分を読み、ドゥルーズの「襞」とつなげていただいたことで、行ったり来たりが直線の往復ではなく、複雑な層をたどりながら、折りたたまれたり、変化したり、固定されない、常に生成の中にある状態のイメージにまで広げてもらうことが出来ました。それは、一つ分かって「よしとするのではなく」「複数の(おそらく矛盾する)影響を豊かに探求すること」というデンボロウの言葉を自分なりの言葉に紐づけて理解する助けになりました。ありがとうございました。”“「再著述実践の強化」という点に惹かれて参加しました。私のクライエントは、長い間抑圧されてきた若者が多いのですが、その中には、子ども時代に本当に酷い体験をしてきた若者もいます。そうした若者たちは、感情が再優先になっていることも珍しくありません。その結果、現実としては、より多くの困難を抱えることになります。
例えば、気分や感情が、考えることや言葉を紡ぐことを妨げるため、セラピー的な対話が成立しにくくなることもあります。対話が成立し深まったと感じても、次の日には全くの白紙に戻ってしまうような場面にも何度も遭遇しました。一瞬共にたどり着いた地点や、一緒に見つけることができたメタファーを、もう少し留めておくことができたら・・。その願いに、少しヒントになるものをいただいたような気がしています。もう少し理解してみたい。そう思えるワークショップでした。引き出しにしまっておきたいものが一つ増えるかもしれない予感を感じています。”“まもさんがボードインさんの論文を翻訳してくださり、それを本棚で紹介してくださったことに感謝です。この論文と出会えたことで、神経科学的理解とナラティヴ実践がどのように繋がっているのかをぼんやりとではありますが受け取ることができました。『ナラティヴと情動』の読み方に、これまでとは異なる視点も持ち込めそうで、理解がより深まっていく予感がしています。どうもありがとうございます!
またジマーマンさんについてのお話しも是非聞いてみたいです。。その時を楽しみにしています。”“初めて参加させていただきました。本をよんでも十分に理解できない所も多く、参加に不安もあったのですが、グループメンバーの方のおかげで気持ちのよい時間を過ごすことができました。
カウンセリングで身体的なアプローチやマインドフルネス、心理教育を取り入れることもたまにあるのですが、「ナラティヴに反してしまったかも」と多少後ろめたい気持ちになっていました。相手に役立っているならそれでもいいのか、自分の目指すカウンセリングを実現するために見直すべきなのか、その文脈ごとに判断するのか、考えていきたいと思いました。
一人で読んでいてはたどり着けない、ずっと深く広いところに連れていってもらえたようで、皆さまに感謝いたします。
ありがとうございました。”“初めての参加でした。どこまで理解できているのか心許なく、こんなことで参加していいのだろうかと不安もあったのですが、グループメンバーの方のおかげで気持ちのよい時間を過ごすことができて感謝しています。
ふだん、面談の場で時おり呼吸やリラックスの手法を取り入れることがあるのですが、少し後ろめたい気持ちになっていたことに気づかされました。
間違っている、と単純に切り捨てるのではなく、なぜそう感じるのか、なにかもっと納得できるやり方があるのか、自分はどうしていくのか、そこに考えることがたくさんあるのだと理解できたことが収穫でした。情動のストーリーを追っていく、という魅力的なアイデアに触れることができたのもよかったです。なにが自分にできるかわかりませんが、これからもよい旅ができるとうれしいです。
講座を企画、運営していただいた皆さまにお礼申し上げます。”“『ナラティヴと情動』が2年前に出版され、ナラティヴ・セラピーの情動論的転回について取り上げました。デイヴィッド・デンボロウは、マイケル・ホワイトが感情を扱っていないかというとそうではなかったと説明しつつ、安易に神経科学的知見を取り入れてしまったら、ナラティヴ・アプローチが避けてきた、文脈を無視した規範的な記述に陥る可能性があり、感情と意味を切り離してしまうのではないかとの懸念を表明しているのはもっともだと思いました。しかし、言葉に注意を向け、身体にフォーカスしないように(戦略的にも?)してきたことにより、探索されなかった「言語」もあったのではとは思います。トム・アンデルセンは、「言語というものはあらゆる種類の表現を含んでおり、語られた言葉はその多くの表現のうちのひとつに過ぎない」と言い、「言語は肉体的な身体活動だ」とはっきり言っていました。トラウマの身体への影響を考えても、身体や情動をどのように扱っていくのかは重要な命題であることはたしかです。
今回マリー・ナタリー・ボードウィンの実践は、安易なものではないと思いますし、むしろ伝統的なナラティヴの質問をしていく中で真摯に情動を扱っていると言えるのでしょう。今後ももう少し充実していく可能性はあるかと思います。ただ、面接相手に身体のポジティヴな側面を答えるように促しているのは、やはり「治療の結果、効果を出す」ような感じにも見えてしまいます。英語の文型にたとえるとSVO的で、S(セラピスト)がO(相手)にV(動詞の「治療する」)をして、直に変えようとしているかのような印象です。おそらくマリー・ナタリー自身は経験のあるセラピストとして、無理にポジティヴなことを聞いて相手が困惑するようなことはないのかもしれませんし、言語化を無理強いすることもないのかもしれませんが、「こういう質問の仕方がある」というのが一人歩きすると、ポジティヴなことを言ってもらうかのような実践につながる危険性も感じます。
一方で、『ナラティヴと情動』が出版された頃の自分の不調を振り返ると、そのままではまずいと思い、その不調についても、本の感想についても、言葉にしてみようとしてみましたが、意味を持つ形には長い間できず、書き出しては中途で終わっていました。あの頃、もしも「身体の感じ」を聞かれることがあったら、それは言えたのかもしれないと思います。そして一年後、身体と感情は結びついていることを感じることがあり、言葉に少しなりました。自分自身の経験から、過去の自分が面接していた人たちとのことも思い出されます。ポジティヴな話をしようとしてはいなかったですが、身体と感情と言葉が切り離されないあり方はあって、会話を続けていくと(ねらったわけではなく)変化がありました。そういう模索ならば、してみたい気がします。
いろいろ考える機会をいただき、ありがとうございました。”
えぬぱっくの本棚(7冊目)
論文『再著述実践を強化する』(Intensifying the preferred self)
Marie-Nathalie Beaudoin (2019) Intensifying the preferred self: Neurobiology, mindfulness and embodiment practices that make a difference. The International Joumal of Narrative Therapy and Community Work 2019 No. 3. pp.96-105.
■「えぬぱっくの本棚」について
カウンセリングやセラピーに取り組む中では様々な書籍や文献に出会うことになると思います。そうして魅力的な本に出会った時、その本の中身や、そこから着想を得て膨らませたアイデアを、誰かと話したくなった経験は誰にもあるのではないかと思います。NPACCでも、しばしばオフの時間にそうした会話が展開するのですが、この会話をもう少し広げてみることはできないだろうか、と思いました。そこで、その時々に出会い、魅力を感じた書籍や文献をシェアし、興味を持った人たちで会話を広げていくような機会を作ってみたいと考えています。
取り扱う書籍や文献は、NPACCの興味関心上、ナラティヴ・セラピーに関係するものや、近い領域のものになると思いますが、それに限らず大切さや興味深さを感じたものがあれば積極的に取り組んでいきたいと思います。
形としては、プレゼンターが、読んで惹かれた、あるいは発想を膨らませた本の内容をみんなで読んだり、プレゼンターが説明したり、考えたことをシェアしたりしつつ、小グループでのディスカッションなどを通して、参加している人たちで、それを基に会話できる時間を設けていく予定です。
平日夜に2時間半ほどの時間で開催してみようと思っています。連続講座のようなものではありませんので、1回ごとにお申込みいただけます。なお、このイベントの開催は、本との出会い次第ですので不定期になります。
参加したかったけど時間が合わなかったという人のために、その時のプレゼンテーションを録画して、後日視聴もできる形を作っておきたいと思います。
■ 今回扱う書籍・文献
Marie-Nathalie Beaudoin (2019) Intensifying the preferred self: Neurobiology, mindfulness and embodiment practices that make a difference. The International Joumal of Narrative Therapy and Community Work 2019 No. 3. pp.96-105.
本論文は、ダリッチ・センターのホームページからダウンロードすることができます。
https://dulwichcentre.com.au/wp-content/uploads/2019/10/Journal-FULL-3-2019.pdf
オーストラリア、ダリッチ・センターで、マイケル・ホワイトの後を引き継いで活動しているデイヴィッド・デンボロウは、ダリッチ・センターの機関誌International Joumal of Narrative Therapy and Community Workに、「神経科学の道を旅する――ナラティヴ実践、神経科学、身体、感情、そして情動論的転回」という論考を寄せています(2019 No. 3. pp.13-53)。
この論考は、小森泰永さんによって訳され『ナラティヴと情動』という書籍の中に収録されています。
『ナラティヴと情動』の中には収録されていないのですが、マリー=ナタリー・ボードインは、この機関誌の中にデンボロウの論考に対する応答(インタビュー記事)を寄せています。
ホードインは、ニュージーランド出身でワイカト大学でナラティヴ・セラピーを教えていたジェラルド・モンクとともに「Narrative Practices and Emotions」という書籍を2024年に出版していますので、ナラティヴ・セラピーに取り組みながらも、情動や身体性について考察しています。
これまで、ナラティヴ・セラピーの文献では、情動や身体性については、あまり論じられてきていませんでした。
そこで今回は、この機関誌に収録されているボードインの論文を取り上げ、ナラティヴ実践と情動や身体性との関係について考えていきます。
話し手は、佐藤衛さんで、組織開発の領域から、ポスト構造主義、社会構成主義、そしてナラティヴ・セラピーに取り組んでいます。
■ 論文の要旨
神経生物学とマインドフルネスは、ナラティヴ・セラピーに基づいた治療的会話に魅力的なアイデアを提供します。この論文では、自分が好む自己を強化し、トラウマ体験にもかかわらず自分の価値観に従って生きるクライアントの能力を高める 2 つの再著述の実践を紹介します。これらのアイデアの応用は、生命を脅かす病気で障害を負った新生児の生存のために 1 年以上闘った若い母親の物語で説明されています。その母親は、乳児が回復すると、衰弱させるうつ病 (「批判的な声」) に陥りました。このうつ病状態は、ナラティヴ・セラピーが開始されるまで 2 年間続きました。脳の神経可塑性を考慮すると、再著述の会話が、何年も強化されてきた闘争または逃走脳状態と、うつ病の神経ネットワークの影響を中和するのに十分なほど強力になる可能性を高めるにはどうすればよいのでしょうか。この記事では、ナラティヴ・セラピーで一般的に探求される好む自己をクライアントが強化するのを支援する、神経生物学にヒントを得た 2 つの方法、つまり、身体化と肯定的な感情の発達について説明します。これらの実践によってナラティヴのワークを充実させることで、長期にわたる、強烈な、内臓に刻み込まれた感情的な問題やトラウマに苦しんでいる人々を、タイムリーかつ永続的に支援できる可能性が高まります。
■ マリー=ナタリー・ボードイン(Mare-Nathalie Beaudoin)について
マリー=ナタリーは、カリフォルニア州サンノゼにあるナラティヴ・セラピー、神経生物学、マインドフルネスのトレーニングセンターを運営し、子供、大人、家族にセラピーを提供しています。彼女は、人間生物学のこれまでの研究とナラティヴ・セラピーを組み合わせることで、セラピーの会話を強化する新しい方法を探ることを楽しんでいます。彼女は、いくつかの記事、本、DVDを出版しています。即興劇の経験を持つマリー・ナタリーは、楽しくて考えさせられるプレゼンテーションで世界的に知られています。彼女は、自由な時間には、夫と2人のティーンエイジャーと一緒にハイキング、ダンス、パドルボードを楽しんでいます。
■ マリー=ナタリー・ボードインの最近の著作
Marie-Nathalie Beaudoin & Gerald Monk(2024)Narrative Practices and Emotions: 40+ Ways to Support the Emergence of Flourishing Identities. W W Norton.
Amazon: https://amzn.to/3E3efkx
■ 参考図書
小森康永、デイヴィッド・デンボロウ、岸本寛史、安達映子、森岡 正芳(2023)ナラティヴと情動: 身体に根差した会話をもとめて 北大路書房
※参加方法および資料の入手方法について:本プログラムに申込完了後、Peatixにログインしていただき、「マイチケット」を選択してください。本イベントのチケットにある「イベントに参加」ボタンを押しますと、参加にあたって必要な情報(ZOOMアドレスと資料のダウンロード先)が表示されます。なお資料は、イベント開催の数日前ぐらいまでにアップする予定です。
日時:2025年4月22日(月)19:30~22:00
開催形式:オンライン(ZOOM)
今回のプレゼンター:佐藤衛
ファシリテーター:国重浩一、横山克貴、白坂葉子
当日参加チケット、及び録画視聴券:¥3,850(¥3,500+税)
参加枠:45名ほど
*録画視聴可能期間は、3か月となります。
*本イベントに参加される際は、この論文を日本語に翻訳したものを共有します。
申込先:https://npaccnohondana202504.peatix.com
領収書について:Peatixでは、「インボイス制度に対応した適格請求書の発行」ができるようになりました。詳しくは次のリンクをご覧ください。https://help-organizer.peatix.com/ja-JP/support/solutions/articles/44002459755-%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%9C%E3%82%A4%E3%82%B9%E5%88%B6%E5%BA%A6%E3%81%AB%E5%AF%BE%E5%BF%9C%E3%81%97%E3%81%9F%E9%81%A9%E6%A0%BC%E8%AB%8B%E6%B1%82%E6%9B%B8%E3%81%AE%E7%99%BA%E8%A1%8C%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6
主催:ナラティヴ実践協働研究センター