NPACCの実践地図  NPACCは、ナラティヴのアプローチをベースとしたカウンセリングを提供することに加え、カウンセラーのトレーニングや、研究を含む様々な協働事業を実践していくなど、幅広い活動のための総合的な拠点です。  中でも、NPACCでは、大きく3つの事業を柱に据えています。 1.カウンセリング事業、2.トレーニング事業、3.協働研究事業です。そして、4.その他の協働事業と知の公共化にも取り組みたいと考えています。

カウンセリング事業


 一つ目は、カウンセリング事業です。カウンセリングや相談の場を必要としている方に対して、ナラティヴ・カウンセリングをベースとした質の高いカウンセリングの会話を提供することを一つの大きな柱に置いています。目の前にいる人を尊重し、会話というものが持つ可能性を最大限に生かそうとするこのアプローチは、これまでのカウンセリングとは大きく異なっており、そのような新しい可能性を持つ実践をしっかりと提供していくことはNPACCの使命の一つだと考えています。

 個人からの直接のカウンセリング相談や、他の機関からのリファー、EAPなど、今日の日本では多くの相談の可能性が考えられます。NPACCでは、できる限り、多くのご相談の可能性に対応していきたいと考えています。また、将来的には、経済的な理由からカウンセリングを受け入れられないでいる方への、クラウドファンディングを利用した無償カウンセリングなども行っていきたいと考えています。

トレーニング事業


 二つ目に、対人援助に関わる方々へのトレーニング事業もまた、大事なものだと考えています。日本の対人援助の領域において、しっかりとナラティヴのアイディアを理解し、実践を提供できる人はほとんどいないのが現状です。しかし、ナラティヴ・カウンセリングが発展させてきたアイディアや実践は、心理、医療、看護、教育、組織開発、調停など、多くの領域に新しい展開の可能性をもたらしてくれると私たちは考えています。なぜなら、ナラティヴ・カウンセリングは、人と人との会話という、対人援助の領域で最もベースとなる部分の新しい可能性を探求したものだからです。キャリアカウンセラー、医師、看護師、ソーシャルワーカー、学校教諭、そうした分野の専門学生など、人と人との会話に携わる全ての領域の人が自分たちの会話のスキルを磨いていく上で、役立つようなトレーニングについて公開し、提供していきたいと思います。

 同時に私たちは、日本のカウンセリング・トレーニングへの新しい在り方も提案したいと考えています。この事業計画を進める中で、現在の日本の対人援助の業界で、他の専門家や指導的立場にある人の実際のカウンセリング場面を見る機会が非常に少ないという現状に気が付きました。カウンセリングは机の上で頭を抱える作業でも、ただ相手の言葉にうなずいていればいいという実践でもありません。今目の前で話す人の言葉にその時その場で反応し、よりよい会話の方向性を共に模索し、展開していくという、ダイナミクスを伴う実践です。他者の実践を見て、参加して学ぶことは、初学者から熟達者まで、カウンセラーの全ての発達過程において、非常に重要な学習機会となります。NPACCでは、トレーニングコースの中に実践的な学びの機会を組み込んでいくだけではなく、アウトサイダーウィットネス&リフレクティングチームというカウンセリングの構造を用いることで、クライエントも利益を受けるような形で、カウンセラーが他者のカウンセリングに参加し、学ぶ機会を提供してきたいと考えています。

協働研究事業


 NPACCでは、他の研究者や研究機関と協働して、カウンセリングや対人援助実践、カウンセリング教育やカウンセラーの発達過程に関する研究、当事者研究など、様々な研究の可能性に取り組んでいきたいと考えています。ここで協働研究と言ったとき、そこには様々な可能性が含まれます。例えば、NPACCが提供するカウンセリング事業やトレーニング事業自体についての研究、あるいは当事者と研究者をつなげる場としての役割、あるいは研究者の代わりにナラティヴの方法を利用したインタビューを引き受けるということもできるかもしれません。

 NPACCと、そのベースとなるナラティヴの実践は、人々の声や物語をひとくくりにせず、その個別性を尊重していくものです。志を共にする研究者、研究機関と共に、ありうる研究の可能性と探っていきたいと考えています。

その他の協働事業と知の公共化


 ナラティヴ・カウンセリングや、NPACCが持つノウハウには、より多様な形で様々な事業に還元できるものが多くあると考えています。例えば、「ツリーオブライフ」というワークは、様々な心理援助のグループと協働することで、支援が必要な方に、自身の人生におけるつながりや価値観を探究していく機会を提供できる可能性があります。また、「秘密いじめ対策隊」というナラティヴの実践は、実際にニュージーランドの学校現場で実施され、効果を上げている、いじめに対する全く新しい取り組みであり、そのノウハウや実践の仕方について、日本の学校現場に導入していく協働についても考えられるかもしれません。対話型組織開発など、組織における人の関係性などについても、ナラティヴのアイディアを役立てていくことができるかもしれません。メディエーションという観点で、様々なトラブルにおける修復的実践についての可能性を探っていくこともできるかもしれません。これらは、NPACCだけでは「可能性」の域を出ないアイディアですが、その可能性を感じられる他の組織や現場と協働していくことができれば、この社会により多くのものを還元していけるのではないかと考えています。

NPACCの思い描く世界、知の公共化


 今、私たちの頭の中には、様々な可能性が思い描かれています。ナラティヴの持つアイディアや実践が広まることで、日本中、世界中でより豊かな会話が交わされ、私たちが私たちらしく生きる選択肢に開かれていく、そんな未来の可能性です。それほどに、私たちはこのアプローチに魅力と可能性を感じています。

 そのために、NPACCでは、自分たちの持つアイディアや実践、ノウハウといった「知」を、できうる限り公共のものとしていきたいという思いがあります。それはつまり、そうした「知」をNPACCや一部の知識層、関係者だけが占有するのではなく、望む人であればだれでもそれを学んだり、利用したりできるものとして、開いていきたいということです。NPACCは、そうした「知」の在り方を実現していく最初の拠点として、カウンセリングという活動を通して世界に貢献していきたいと考えてます。